生酛を極める 生酛蔵さま訪問

酒蔵訪問 仁井田本家編 Prat 3【古式酛摺にこだわる】

古式酛摺

江戸時代から変わらぬ

生酛造りの独特な作業風景

酛摺(もとすり)作業、

山卸(やまおろし)作業とも言う

お酒の造り方で、山廃と聞いたことが

あるでしょうか?

正式には、山卸廃止酛と言い、

この作業をやらない酒造りのことです。

生酛と山卸廃止酛の違いは

この作業をするとしないでは、

何が違うの?

これから生酛を飲んでみたい方へ

複雑で色々な味を楽しむ山廃酛

深みと旨味の広がりを楽しむ生酛

両方とも、お燗が楽しい純米酒

ぜひ、飲み比べてみて下さい。

益々、ご興味が湧いてきます。

もっと知りたい方へ

この古式酛摺作業

半切り桶に蒸し米、米麹、お水を入れ

私たちが手にしている棒を、櫂(かい)と言い

それですりつぶしていく作業。

この動画でご覧頂いた酛摺作業の前日に

蒸したお米を、平らに広げ、一昼夜かけて

冷ます作業を「埋け飯(いけめし)」と言い

蒸し上がったばかりのお米は、

のり状になりやすいので冷まして、

つぶれにくくする。

そして、その固くなった蒸し米と米麹とお水を

半切り桶に入れ、「手酛」と言う作業にて、手でかき混ぜる

実は、この手酛作業が冬の寒い仕込み時期に

辛い作業なのです。

要するに、前日の「埋け飯」、当日の「手酛」

そして、ご覧頂いた「酛摺」

一連の作業となります。

現代では、東北の日本海側、秋田~京都で

ドリルで酛摺をする酒蔵様が多いようです。

このドリルで酛摺をする場合、

埋け飯、手酛は、省略するのが

一般的です。

そして、当然、埋け飯、手酛、酛摺を

しない酒造りが、先ほど申し上げた

山卸廃止酛です。

エキスパートの方へ

山廃酛は、酸度が生酛より上がらず

殺菌効果が弱い。

そして、デキストリン、ペプチドが、

生酛より多く含まれ、

【これから飲んでみた方へ】で述べた

味の違いが出て来る。

何のこっちゃ?ですね。

山廃酛は、生酛より酸度が上がらない?

山廃酛、生酛と共に、清酒黄麹特有の乳酸菌が

ブドウ糖、中でもリノール酸を食べ乳酸を

出し酸度を上げ、酒造りに不必要な菌を

ブロックして負造(腐ら)せず、お酒となります。

 

この一連の発酵の前に実は、

山廃酛と生酛の違いに大きく左右する

プロセスがあるのです。

それが、湧き(仕込み)水です。

酒蔵さまの湧き水の中に生息する、

亜硝酸(あしょうさん)還元菌群による

亜硝酸反応が大事で、野生酵母も菌類も

消滅させ、後に、乳酸菌が乳酸を増やし

その乳酸によって、亜硝酸還元菌群は消滅する。

 

山廃酛は、動画にもあった、

腰より少し高いホーローの樽が壁際に

いくつもあったと思いますが、

その樽に直接、蒸し米、米麹、仕込み水を

入れます。

濁り酒のふる前の、分離した状態のイメージです。

これを「かい離水」と言い、この状態だと

亜硝酸還元菌群の嫌気(けんき)性の

エンテロバクター属が優勢になり

酸度が上がりにくい。

 

生酛造りは、埋け飯、手酛で、空気を多く含み

山卸作業てに、どろどろの「混合糖培地」

(白飯をたくさん噛み続けると

甘味が出てくるのと同じ)が造れ

亜硝酸還元菌群の好気(こうき)性の

シュードモナス属が優勢になり、

酛摺作業による強制糖化もされているので、

清酒黄麹の乳酸菌がブドウ糖の中で

リノール酸を食べ、早々に酸度が上がる。

山廃酛と生酛では、乳酸の殺菌力の違いが

不必要な菌の残量が味に影響を及ぼす。

山廃酛は、デキストリン、ペプチドが多い?

純米酒は、原料であるお米の粒の中心に

デンプン、その周りにたんぱく質があり、

米麹の酵素によってデンプンを細かく分解し、

ブドウ糖にする。

そして、たんぱく質をアミノ酸に細かく分解する。

デンプンを分解するとデキストリン

更に細かく分解するとブドウ糖。

たんぱく質を分解するとペプチド

更に細かく分解するとアミノ酸

こんな関係です。

 

デキストリンは、甘味を持たない物質で

とろみがかった感じ、水溶き片栗粉を

イメージして頂くとわかりやすいでしょうか。

よく市販のとろみがあるソースやドレッシングに

使われている物です。

好みですが、

少しくどくキレの悪い感じに

なるかもしれません。

いや、舌に味が残って余韻がいいと言う方も

いらっしゃるでしょう。

 

ペプチドは、アミノ酸と同様に旨味成分の

一つですが、味覚よりは、感覚でしょうか。

プロテイン(たんぱく質)を取って

体内でアミノ酸に細かく分解してから

筋肉のエネルギーや修復に使えるように

なります。

ですから、ペプチドも体内でもっと細かく分解して

アミノ酸になってからやっと体に吸収され

活躍が出来る状態になる。

酒造りでしっかりとアミノ酸に

分解していれば、体に自然に浸透する

気持ちい感じ。

なので生酛は、飲み疲れしないと言う方も、

感覚でスイマセン。

古式酛摺とドリル式酛摺の違いは?

古式酛摺は、動画でご覧頂いたやり方です。

前日の「埋け飯」、当日の「手酛」

そして、「酛摺」

この様な工程が必要となりかなり重労働です。

ドリル式酛摺は、「埋け飯」「手酛」は行わず

蒸し米、米麹、お水を樽に入れ、ドリルの先にプロペラを付け

粉砕かくはんしていきます。

私の考えですが、

櫂で酛を摺り下ろす事とドリルで粉砕かくはんする事

これらの工程自体は、「強制糖化」と「混合糖培地」

状態を造り事。

これらに関しては、同じ効果と思っています。

それよりは、前日に「埋け飯」をするか、しないかが、

大きく酒質にかかわると色々な生酛蔵さまの

ご意見を頂くにつれ感じる様になりました。

埋け飯の必要性

お正月、お節を食べると

皆さま、まず味に関して

何を感じられるでしょうか?

多くの方が、甘味が強いと思われるのでは

ありませんか。

そして、甘味だけではなく強めの味を感じられる

思います。

これは、日持ちを良くするための先人の知恵ですね。

糖が多くなると菌の繁殖が抑えられる事を

先人は「酸っぱくなりにくい」事を

経験で知っていたのでしょう。

実は、酒造りでも大切な要素なのです。

酛摺は、お米を摺る頃で、強制的に糖化させる作業なのです。

乳酸菌は入り込み、糖を食べて乳酸を出していく。

しかし、糖度が上がり過ぎると繁殖しずらくなる。

お節の味付けと同じ考え方です。

そこで、乳酸菌が心地よく働ける環境を作って行くために

甘さ糖度の調整が必要となります。

その作業が、前日の「埋け飯」です。

蒸しあがったばっかりのお米は、

指でつぶすとのり状になり甘味がすぐ出てきます。

しかし、「埋け飯」をした蒸し米は、

つぶれにくく、甘味の出にくくなります。

炊飯器で炊きたてのお米と

保温でしばらくたったお米との

違いの様なものです。

蒸し米を、アルファ(α化)状態をベータ化(β化)状態にして

糖度調整と蒸し米を広げ一昼夜冷ます事で空気にふれ

好気性細菌の優勢状態にする事が、「埋け飯」の役割です。

ドリル式酛摺は、「埋け飯」「手酛」をしませんので

高糖度になりやすく、亜硝酸還元菌群反応や乳酸増殖の妨げになり

そして、好気性細菌よりは、酸度の上がりにくい

嫌気性細菌の優勢の環境になりやすい。

亜硝酸還元菌反応が弱い事と嫌気性細菌優勢環境になると

不必要な菌が残り負造(腐る)リスクが高くなる。

それを防ぐ為に、硝酸カリ(化学合成された食品添加物)を

入れる様になる。

即ち、山卸廃止酛造りに近い酒質、

複雑で色々な味を楽しむお酒になる傾向のようです。

ちなみに、ドリル式の酛摺でも、

前日の「埋け飯」をされている酒蔵様があります。

これらの事をお感じになられ

「埋け飯」が、酒質に大きく左右する大切な

工程だとおっしゃられております。

勿論、この酒蔵様の生酛、

私も大好きです。

即ち、生酛造りで「酛摺」自体よりは

「埋け飯」「手酛」工程をしているか

いないかが、キーポイントです。

酒蔵さま、酒屋さま、飲食店さま

お酒をご紹介しているライターさま

これらの方々様は、当然これを

熟知しています。

ぜひ、「この生酛造りの純米酒、埋け飯、手酛を

やっていますか?」と

ドンドン聞いて下さい。

要するに

生酛と山廃では、純米酒の性質が

全く違い、これらは、同じ物と

言ってしまうのは、どうかと思います。

もちろん、どちらも素晴らしい酒造りです。

ぜひ、お気に入りの純米酒に出会うと

いいですね。

生酛造り一筋10年
料理人店主 おさむ

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